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とあるエンジニアのブログ

感覚に頼らない。組織課題をeNPSから分析する方法

メリークリスマス🎄
この記事はEngineering Manager Advent Calendar 2020の25日目の記事です!

ついにアドベントカレンダーも最終日となりました。 さて、最後の記事は組織課題の分析方法についてまとめてみました。 組織課題というものは目に見えなくわかりにくいものです。それを分析するというのは一体どうやっていけば良いのでしょうか。

最初に1つ質問です。皆様の組織はどのように組織課題を集めて分析していますか?

これが課題“だと思う”、という直感的な感覚で課題を見つける人も多いでしょう。しかし、それが本当に課題なのかは定かではありません。私たちはあくまでも自分の認知フレームでしか課題を認識できないからです。

本稿では、組織課題を感覚に頼らず定量的に分析していく手法を紹介します。

組織サーベイやっていますか?

1on1などを通してヒアリングしていくことはとても大事ですが、組織サーベイ*1という方法でも課題と向き合うことができます。 組織サーベイとは、組織に対してアンケート等を行い得られた情報から組織の問題点や改善点を分析するプロセスのことを指します。 そのプロセスはサーベイの頻度/量によってセンサスとパルスサーベイに分類できます。

  • センサス ー 半年から一年に一度の頻度で数十問の設問に回答してもらう。根幹にある課題の可視化をする。
  • パルスサーベイ ー 1週間から1ヶ月に一度の頻度で10問以下の設問に回答してもらう。細かい変化を把握する。

昨今はさまざまな組織サーベイツールが登場しており、パルスサーベイもやりやすい環境整ってきました。AIを利用した分析などもできるようになり今後大きな発展が期待される分野です。 一方で、その解析・診断結果の過程はブラックボックスと化しているツールもあるというのも現状です。「あのサーベイツールがこう言うからこれをやろう」となってしまうと、サーベイツールが"組織の羅針盤"と化してしまいテンプレートのような組織開発を進めてしまうかもしれません。

サーベイツールをより効果的に利用をするためには、組織サーベイではどのような分析を行えばいいのかという基本を学ぶことは必須です。 それでは早速、センサスやパルスサーベイで得られるアンケートデータの分析手法を学んでいきましょう。

重要指標 eNPS

組織サーベイでは、従業員が会社をどのように認識/評価しているかを数値化して組織診断を行います。中でも重要視されているのがeNPSという指標です。eNPSとはEmployee Net Promoter Scoreの略で、従業員のロイヤルティ(忠誠心、愛着心)を可視化する指標です。

なぜ、eNPSが重要かと言うとeNPSが高い社員は離職率が低いだけではなく、生産性も高くなるからです。また、チームやメンタルヘルスなどとも相関関係が強いため、eNPSを軸として分析をすると良いとされます。

元々は顧客ロイヤルティの指標であるNPS(Net Promoter Score)を起源としており、NPSでは「あなたは{商品名やサービス}を、どの程度親しい友人や家族に勧めたいと思いますか?」のような設問を用いてロイヤルティを測定していました。 eNPSでも同様に「あなたの会社を、どの程度友人や知人に勧めたいと思いますか?」といった設問に対して、0~10点で評価してもらいロイヤルティを測定します。

eNPSの算出は、まず各点数ごとに次の分類を行います。

  • 推奨者(9~10点) ー 会社やサービスを愛しいつも周りの人に薦めてくれる。離職率が低く仕事のやりがいを感じて会社に優秀な人材を呼び込む。
  • 中立者(7~8点) ー 中立的な立場をとっていて会社やサービスを薦めることも批判することもない。
  • 批判者(0~6点) ー 会社やサービスに対してネガティブな感情を持っている。中立者や推奨者に比べて離職率が2倍にもなるという。

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点数ごとの分類

そして、推奨者の割合から批判者の割合を減算することでeNPSを算出できます。 例えば、推奨者17人、中立者31人、批判者19人というデータでは次のようになります。

推奨者25.4% - 批判者28.4% = eNPS -3.0

尚、日本国内企業においてeNPSの平均的な点数は -40 ~ -20 程度と言われています。

eNPSを上げるにはどうすればいいか

では「eNPSを上げればいい」と考えるのは少し違います。eNPSはあくまでも測定指標でしかなく、組織課題の解決することにより結果としてeNPSが上がることになります。

eNPSだけに注目するのではなく、その背景にある課題などを分析することが非常に重要です。 そこで必要になるのがアンケートデータです。

アンケートデータを分析する

それでは、具体的にeNPSとアンケートデータを分析してみましょう。

本稿ではサンプルアンケートデータを用いて分析を行います。アンケートの設問はリッカート尺度*2を5段階で用意したと仮定し、5に近ければポジティブな回答とします。

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Googleフォームでの設問例

15の設問を用意したと仮定すると、次のようなデータを集めることができます。(イメージしやすいようにスプレッドシートにしました)

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サンプルアンケートデータ

これらのサンプルアンケートデータを分析します。

eNPSと設問の相関を探る

組織サーベイにおける代表的な分析はどの設問がeNPSに相関があるのかを確かめることです。それには相関分析という手法を用います。

相関分析とは、2つのデータの関係性を表す相関係数を計算し、数値化するという分析手法です。相関分析にもいくつかの種類があるのですが、ここではピアソンの積率相関を使用しています。 相関係数は-1から1の間の数字となり、1に近づくほど正の相関、-1に近づくほど負の相関となります。

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正と負の相関

各設問の相関係数を算出して散布図にプロットします。
本稿ではRを用いて算出しました。各設問はインデックスを数字として散布図にプロットしています。

# アンケートデータ読み込み
data <- read.csv("data/input.csv", header=TRUE)

# 1列目はeNPSとして扱う
enps <- data[,1]

# 2列目以降はスコアデータ
scores <- data[2:length(data)]

# スコア平均を算出
avg_scores <- apply(scores, 2, mean)

# eNPSとスコアの相関を算出
cor_enps <- cor(enps, scores)

# 二次元散布図を作成
plot(avg_scores, cor_enps, type = "n")
abline(h = mean(cor_enps), v = mean(avg_scores), col="#dcdcdc")
text(avg_scores, cor_enps)

f:id:dskst9:20201224001527p:plain
サンプルアンケートデータの散布図

この散布図をアクションドライバーチャートと呼びます。アクションドライバーチャートは、中心線によって4象限に分かれていて各象限毎に次の意味を持ちます。

  • 右上の象限 ー 重点維持項目。eNPSと相関が高く現状のスコアも高い。
  • 左上の象限 ー 優先改善項目。eNPSと相関が高く現状のスコアは低い。ここを改善することでeNPSの向上を見込める。
  • 右下の象限 ー 基本維持項目。eNPSと相関は低い、あるいは負の相関でスコアは高い。相関が0に近ければ基本は維持する。
  • 左下の象限 ー 注意観察項目。eNPSと相関は低い、あるいは負の相関でスコアも低い。相関が0に近ければ注意観察をする。

サンプルアンケートデータの散布図に4象限を当てはめると次のようになります。

f:id:dskst9:20201224001621p:plain
サンプルアンケートデータの4象限

重点維持項目としては 4,12,15、優先改善事項は 1,2,3,5,6,8 ということが分かります。

しかし、これだけで「相関分析ができた!」とはいえません。

これだけでは相関が強い、弱いということはいえないのです。 例えば、次の絵はコイントスのシミレーションをしたものです。眺めていると分かるのが、確率1/2のコイントスでも1シーンを切り取ると偶然にも偏りが発生しています。

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コイントスのシュミレーション

アンケートの分析も同様で、偶然にも相関が算出されることがあります。この偶然というものが結果を歪めてしまうのです。 そのため、相関係数にどれほどの信頼度があるのかということを確認しなければなりません。

相関の信頼度を可視化する

相関係数の統計的優位性を確認する方法の中から、無相関の検定を用いて検定してみましょう。 無相関の検定では、その相関が偶然に発生しえるものかどうか検定します。相関が偶然起きているのか、それとも高い相関があると言えるのかを有意水準という境界で判断します。

有意水準を設定するためにはP値という値を算出します。P値とは、極端な(仮説に反する)統計量が観測される確率のことです。 有意水準としてP値を0.05(5%)で設定するのが慣習となっています。これは5%のエラーは容認せざるえないという閾値だと考えてください。 言い換えれば95%信頼できるデータかどうかを検定すると言っても良いでしょう。

さて、先ほどの散布図にP値を表現できるでしょうか。2次元だと難しそうですね。
では、散布図に対してP値の軸を追加して、3次元の散布図を作ってみましょう。

Rを用いて3次元散布図をプロットしてみます。

# 相関係数の優位性を検定
cor_tests <- vector(mode = "numeric",)
for (score in scores) {
  cor_test <- cor.test(enps, score)
  cor_tests <- c(cor_tests, cor_test$p.value)
}

# 3D散布図を作成する
plot3d(avg_scores, cor_tests, cor_enps, type = "h", col = ifelse(cor_tests <= 0.05, "#d52b2b", "#ffd5d5"))
text3d(avg_scores, cor_tests, cor_enps, c(1:length(cor_enps)))
grid3d("x", at = list(x = mean(avg_scores)), col = "#dcdcdc") 
grid3d("z", at = list(z = mean(cor_enps)), col = "#dcdcdc")

f:id:dskst9:20201224004837p:plain
3次元散布図

濃い赤い線になっているのが有意水準を満たす相関になります。2次元散布図(検定前)では 2,3,6 が優先改善項目に入っていましたが、有意水準を満たしていないということがわかります。 よって、 2,3,6 は優先改善項目から外した方が良いでしょう。

f:id:dskst9:20201224005305g:plain
3次元散布図を動かす

3次元散布図を作ることで、一つの散布図で分析ができるようになりました。

データを俯瞰して見てみる

では最後にサンプルアンケートデータの分析を俯瞰してみましょう。 eNPSと相関がある設問は次の通りとなります。

  • 重点維持項目: 4,12,15
  • 優先改善項目: 1,5,8

この結果に対して、なぜこの設問が連動しているのかを考え、アンケートで同時に集めたフリーコメントなどを確認しながら仮説を立てます。 さらに、(本稿では取り上げませんでしたが)因子分析を行うと尚良いでしょう。

仮説を立てたら仮説検証、要するに組織課題改善に着手を進めていきます。 その途中経過をパルスサーベイで観察しながら、次のセンサスの結果でどう変わったのかを追っていくというのが組織サーベイになります。

さいごに

このように組織サーベイを行い分析することで、感覚に頼らない組織課題分析が可能となります。 組織サーベイを行う際は参考にしていただけると嬉しい限りです。

併せて読みたい

note.com

*1:従業員サーベイ、エンゲージメントサーベイとも呼ばれます。

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E5%B0%BA%E5%BA%A6